『1番はじめのプロポーズ…え、そんな最初から?!』
【ボーイズ&ガールズ!】
?.君んちのお墓は誰がまもるのですか〜?事件における検証
だから、最初っからおかしかったんだって…。夏休み以来、しげしげと生徒会室に通うようになったわたしには、じつは
『お母さんがうるさいけん、高々生らしくはしとかないかんかもしらんけど、勉強なんかもうせん、できん!大学になんかいけんでもえーわぁ作戦』
以外にじつは、密かに知り合いの女の子たちより託された頼まれごとが2、3あった。
ところが、それを首尾よく努めようと、
あのM下先輩
(=最初に会った時に1学年うえの3年生だとばかり思い込んだ感覚が抜けなくて、日記ではなぜかこの呼び名で書かれている。別名は『大御所』…1日でも先に入門した相手はあにさん…的などこか落語界の兄弟子感覚に近いものをも、感じてのことだった。)
が陸上部のトレーニングノルマを終えてから、ひとり編集作業の再確認などなさっておるところに、そろそろーっと近付いて
『あ、校正ですか?わたしも何かやりましょうか!』
なあんてやってるとなぜか必ず、やってきちゃうんだよね、M脇くんが…。
なんとも云えず、へ〜んな圧迫感を感じて嫌だった。
なかでも、あの日のあれは忘れない。人前であんなこと聞くなんてさ。
『…ところで、失礼ながら君の家のお墓は誰れが守ることになっとるのですか?』
『…?!』
いまでも、思い出すと顔から火がでそうになった、あの一瞬がよみがえる…。懐かしいです。
え?何がって?
ああ、きっと当時だってワカラナイひとのほうが多かったに違いないし、
2012年…平成24年の現在じゃ、もうはるか昔の知るひとぞ知る風習なんだろうなあ!
解説しよう!そのセリフはね!わたしのちいさい時分に育てられた田舎のお山では、れっきとした縁結びのための重要な問いかけ文句だったのだ。
つまり気になる娘さんの縁者に対し、そちらとの縁結び、婚姻のできる可能性ありやなしや?お返事はいかに?
との問いを遠まわしに確認するために若衆の縁者が、農作業の合間にちょいと日向の縁側かなにかに腰掛けてお茶を飲み飲み、なにげなぁく交わされて、使われるはずの、意味深なセリフだった!
『わ。こ、このひと。いま、わたしにプロポーズしてる!
なんで、どうしてこのセリフを知ってるの? このひと。おじいちゃんちの近くに住んでんの?
いやしかし、このセリフは、ことわられても互いに穏便にすませるための大事なひとこと。決して当事者がひと前なんぞで軽々と口にするべきセリフではないはず。
それを、そんな大事なひと言を、このM脇ちゅうひとは!
M下さんが目と鼻の先で作業しとるその前で口にするとは……な、なんたる無礼!傍若無人、非常識!
…ゆ、ゆるせーん!
でも確か、確かこれには、おことわりする時の返し文句があったはず。
ずーっと以前にだけど、山本のばあやんが、わたしにも、ちゃあんと教えてくれたわい!』
『…わたくしは、次女ですけれど 前々からの姉との約束がありまして、うちのお墓はわたくしが守ることになっています。(=これは事実そうだったのだ。そして、後々頭のひどくカタかった融通のきかない私をかなり長い期間、お家というものに縛りつけることとなってしまった。)
…で、
それがなにか?!』
ふふん。これぞ必殺の返答・おぬしの求婚なんぞはおことわりの儀のセリフじゃ〜!
『うーん、それは困ったな…。僕もうちの家の長男なんでね、うちの家と墓は僕が守らねばなりません。』
そ、そんなもの知ったことかー!勝手に困ってなさいよ!
そしてね、なぜ君は、17歳の分際で 自らそのセリフを いうんだね?!
ほら、ごらん。M下先輩の、肩さきが揺れてぐふぐふって笑われてしまっているじゃないか〜。
…って、先輩、さっきの問答の意味わかったんですか?ほんまに、この高校はあなどれん。
…と、そこへ、高松高校・今期随一の頭脳ではないか?との噂もある、『親愛なる文化祭委員長』のS藤アツヒコせんせいが、古文の資料片手に、暗誦しながらやってくる。
『…みこよみこもち、ふくしこよふくしこもち、この野に菜つますこよ、う〜ん。なんちゅうかのぉ〜、やっぱり、むかしの文調というのは読んどると、こう、読んどるまわりの空気までが、なごやかになるっちゅうような気がするのぉ〜。
ん?、なに?。なんか、おもっしょいことでも、あったんな?
なぁにがあったと言うて、そないして机から笑い転げ落ちよんじゃ、M下は。』
もう、嫌だあぁぁぁ。みこよみこもち、じゃないんだよ!
名をきかれてつい答えたら妻どい決まりの古事記のいにしえごとじゃあるまいし!。
だいたい、このはた迷惑なM脇くんくらい、失礼で、すっとんきょうで、訳のわからない日本語を使う同年代の人間に、わたしは会ったことがない。
あの夏休みの天体観測の瓦町駅前で解散しての帰りだってそうだった。
ホームで電車を待つわたしに、乗り場と帰る路線は違えども、同じく琴電の電車を利用して帰宅路につこうとしてた時、きみは何て言った?!
「あのさ、きみ、僕と付き合うことにしない?」
…まあこれは、いいとしよう。
どこのカップルも始まりなんて、そんな感じだろう。
しかし、わたしには迷惑だ。
わたしは実際怒っていた。
「なんで?。なんで、あなたとわたしが付き合わなくちゃならないんですか?!」
さてだ。この時にだよ。
6月に生徒会室で偶然見かけた、生徒会長選挙の応援ポスター書きのお手伝いにきた女の子が、誰にもなんにもいわれないのに、一杯になってあふれそうになってるデカポリバケツのゴミ箱に気が付いて、それをちっちゃい身体に似合わず軽々と、
(注:かっちゃんの家の家業は八百屋さん。10キロ〜20キロくらいのリンゴやじゃかいもなら、平気で運んでお店に並べたりしていたんです。)
楽しそうにニコニコして焼却炉に運んでいったのが…君の、どこかにいい子はいないかなぁの琴線にどう触れたかは知らないが。
「え〜?だって、きみとぼく、
破れ鍋に綴じ蓋でい〜じゃん。」
ってのは、しかもその取ってつけたような、へんてこりんな標準語もどきはなんだろう?!
気持ち悪かった。
わたしたちは、まだ会って2ヶ月。話をしたのだって、今のでたしかまだ三回目くらいのはず。
なのに
なにが?!
どこが「破れ鍋に綴じ蓋」?!
あなたは綴じ蓋かしれないが
わたしのどこが破れ鍋なの?
勝手にひとをつかまえて
3年も4年も同棲した間柄かなんかのような口をきくな!!
理系って理系クラスのひとって
こんな日本語の使いかたも知らんの?!
数学や物理や化学式なんかいじくってる合間に、少しは山本周五郎でも読んでみたらいいんだ!
このなんて言えばいいんだろう、無神経な、自分しか見えてない
理科ばかニンゲン〜!だぁ〜いキライっ。
……。
ああ〜それよりも、また聞き込み調査に失敗だ。…むずかしいものだなあ。
『M下さーん、知り合いに頼まれてお聞きするんですけど、本当に1963年生まれですか?。
いや、どっかでダブってて(=留年していて)、じつは自宅でお友達とタバコすぱすぱ麻雀してるっていうのがウワサになってるんですけど、本当ですかー?』
…なんて、わたしにはとても聞けん。
馬鹿かと思われちゃうよ。なんで、引き受けちゃったかな〜。
『みのむしの詩』の担当になったとたん、急になんだかほかの女の子たちに、頼まれ始めたんだよね。
『ね、お願い、あのM下ってひとのこと、それとなーく調べといて。あと、彼女がいるかいないかとか、食べ物の好き嫌いとか、好きな映画とか歌手とかもー!』
ね、ね、お願いだから!と頼まれて、とりあえず請け合ってはみたんだけれどー、思ったより難しいもんだとわかったぞ、これってば。
編集の片手間に、耳おったてて、情報収集なんて。それどころじゃないってばー。
『おーい、今日は印刷所に試し刷りのチェックに行くぞー。』
はいはいはいーっ!
いま、行きま―す!
そんでもって、頼まれごとの遂行をしようとしてるわたしをだ、M脇くんはだね、ありゃなんかはなはだ誤解してるに違いない。
絶対、絶対、ちがいます。仕事に恋はもちこみません。それほど器用じゃないんです、そういうのは勘弁して欲しい主義なんです。
大好きなひとは愛媛に行っちゃったんだよ。
だからね、君も、変な感情持ち込まないで―!。頼むよ本当に。
見渡せば、周囲もなんだか、すっかり
『おーい、M脇がんばれよ〜』って視線だし、やりづらいったらありゃしない。
それはさておき、
調査だよ。