おんなのこ達

『ね、ね、かつこさ〜ん!ちょっとちょっと。』

はいはいはい、っと。今日のご用はなんでしょう〜?

なになに、生徒会室に出入りしてて理系クラスで銀ぶちメガネかけてるあのひとは誰れ?

って、それだけじゃ対象者が何人もいるんだけど…。

なにヨットにもいってるひと?

あぁー、そりゃK津くんだ。

下の名前と誕生日が知りたいと?ちょっと待っててね〜、生徒手帳に書いといたから。

名前はマサト、誕生日は★月*日。おとめ座さんで〜す。はい、つぎのひと〜。

髪がちょっと茶色めでふわっとしてて、やっぱり銀ぶちメガネでどっちかというと中肉中背で赤いベルトしてて、笑うと口もとが がらっと変わる感じ?

…はいはい、赤いベルトなら、それはきっとK宗くんですね。

まず間違いありません。これが、髪はうんと黒くってくるっとしててうす紫のキャンバス地のアーミーベルトのひと…だってんなら、それはI石クニヒコくんだ。

はい、はいはいはい。おなじく銀ぶちメガネの山岸涼子さんの漫画に出てきそうな、切れなが一重まぶたのM本ヒサシくんについて?

『社長の息子さんだっていうのは、本当?』

ええ、本当らしいですよ。そのせいでしょうかね。女の子のこととか食べ物の味とか身だしなみとかには、彼、ちょっとウルサイひとで。

ありゃ目と舌が肥えてる。辛口の批評家です。

言いたい放題を口にしてるみたいですが、でも不思議とそれがぎりぎりのところで気障じゃないみたいな…。でもって結構、世話好きさん。みんなの身だしなみだの、健康状態だの、気がついたらソーッと密かにフォローしてたりするんだよね。意外でしょ?!

などなどなど。

…しかし、女の子って。女の子たちってすごいなあ。

チラッ、てすれちがいざまの一瞬に、あ、あのひとだ、キャー恥ずかし〜!…なんて思いながら、

『気になるあのひと!』の特徴をひとつ、ふたつと見つけては…胸に大事に持っている。

あの小6の冬にお母さんにしかられてからも、ずっと内緒で好きだったIくんの…転校していっちゃった愛媛からのお便りをば

勝手に開けられ、日記はのぞかれ、かっちゃんあなたは、まだ子供でしょ。なにやっているのかしら、恥ずかしい。

いいですか、そもそも…そんないやらしい気持ちを親兄弟をさしおいて勝手に自分から抱くなんてことが…(中略)…あなたというひとはまったく…(中略、約1時間半経過)…だから、もう金輪際、年賀状と暑中見舞い以外のお手紙なんて男の子に書いちゃいけません。いい?わかったわねっ?

…ということになってから、とんと遠ざかってしまって、最近じゃもうなんだかわからなくなってた感触だ。

なんかいいなあ、みんな。きらきらしてるよね。あのこも、このこもあのひとも。
元気でかしこくて可愛くて、ほっぺそわそわ、一生懸命〜!

…えーい、わたしでよければお手伝いさせて頂きますとも。良かったらなんでも言ってみて〜!

思えば桜町中学で クラス委員になったときの災難以来、女の子たちとの付き合いは、ずっと警戒して遠慮してたんだけれど、今のわたしの位置って、なんかいいな。悪くないよね。

…あ〜あ、あの時はひどい目にあったよなあ。運わるくそれぞれ、ファンクラブ持ちの、左側にはシンセサイザーを弾きこなすK辺トオルくん、右側には野球部のエースのK藤トシヒロくんが委員長としてだ、学校行事や朝礼のたびにわたしの両側に並んだわけ。

で、先輩ならびに同輩の彼らのファンの集団には、これが面白くなかったらしくって、

あーだこーだといじくられ、へんな悪口並べた手紙やら石ころは鞄に入っているしで、しばらく難儀をしたもんだ。

あれ以来、女の子たちってこわかったんだけど。

お母さんの『恋愛感情絶対禁止令』に身体もこころも慣れたいま、

きっとわたしのからだからは、彼女たちを安心させてしまう

『このひとは大丈夫、ライバルじゃないわ』光線でも出ているのかもしれないなぁ!

でも、いいんだ。わたし決めてるんだもん。おんなのひとになんかならないの。

結婚なんかしないでいい方法をなんとかして見つけるんだ。

…もし、もしこのまま、また以前のように変な『わたしなんか、いますぐ消して壊しちゃえ!』っていう、
アノ真っ黒な気持ちになったりしなければ…。

そして、ややこしくて漢字の多い文章だの英文だのが変なふうに空中分解して見えたりしなくなってくれさえしたなら…。

きっとそうする、決めてるんだ。