放課後の、木造校舎のすみっこで…(後編最大ロングバージョン)


『もお、笑わせないでよ。今頃なに云ってんの〜。だいたいアナタって、どっか発育不全なんじゃないの?ほんと、おんなっ気のないひとよね…』

『なあに?編み物もお菓子づくりもバレンタインデーも嫌いなの?。ぜんぜん興味ないだなんて言って〜、かつこさん、ちょっとそんなんで大丈夫?』

『まさかと思うけど、男の子には興味ないとかって方面のひと〜?』

『キャー、うそ、そうなの?!』

私:いや、大丈夫。それはないよ…たぶん…だから、それはないですって!!

『うわぁ、いま、本気にした〜。ジョ〜ダンに決まってるのに。
もう、やだな。』

しかし、こんな調査依頼するのにわたしほど都合のいい子はいなかったらしい。

だって、気になるM下君の実態の情報は身近でみて確かめてきてくれそうだし、

そのくせ出し抜いて、ちゃっかりアピールして自分ひとり彼女におさまるような、こしゃくな真似は、しそうにもない。

みるからに『おんなのこ』であることをどこにも押し出していない『て〜んで子供だわねタイプ』でしたから!
それこそ安全パイもいいところ。

『…たしか自転車通学だったよね〜、彼。』

『食べれるケーキは チーズケーキだけだとか言ってたんだって〜』

『…ってことは、甘いものはニガテなんじゃないのー?』

私:あのー、そのチーズケーキって…、どんなケーキなの?

『うわ、ちょっと待ってよ〜、チーズケーキ知らんの〜?』

『丸亀町でも三越でも ケーキ屋さんに、ならんどるやん。』

私:ごめん、そういうこと、あんまり知らんのよ。うちの家、寄り道禁止されてて。

『わたし、おいしいとこ、知ってるー、なぁ、今度一緒に買いにいってみる?お店、教えたげるよ。』

『親になんて、黙ってたらわからないって、そのくらい。悪いことでもなんでもないのに〜。ねえ?』

こうして、わたしはM下先輩のおかげで チーズケーキというものを知ったのである。

高々の校舎の立ってる周辺や、商店街にはハイカラで洗練されたお店もある、四国の高松ながらそれなりに都会的な街でした。

(いや本当だってば、路地に入ればそこには東京の吉祥寺のようなお店が…あるところにはちゃあんと、その頃にだってあったんだってば〜!。都会在住組、そこのひと、哄笑しない!)

しかしわたしは、高松の中心街からはるか南に離れた、高松市の南の端っこ一の宮に住んでいた田舎の子です。

17歳になるまでチーズケーキなんてもの みたことが ありませんでした!なにせ、そんな名前のケーキが存在すること自体、シラナかったんだもの〜!
イチゴとかのフルーツのショートケーキやタルト、ボンボンとかパイとかなら、ちゃあんと知ってたし食べたことだってあったんだけどね〜。

チーズケーキ食べたことなかった。学校がえりにケーキ屋さんに寄る!なんて おんなのこたちの集団ってはなやかなんでしょー!

でも、情報の受け渡しをしてくれればいいだけの わたしは結局のところ、彼女たちにとっては気楽な通りすがりの人間で。

結構キャーキャーの対象は ある程度の時間がたつと、つぎのニューフェースがあらわれてたりして、うつりかわりゆくもの、だったらしくて。

何週間かが過ぎると

『あ、あの質問〜?
もういいからね〜。気にしないで〜。なんかさ、このごろ生徒会でいろいろやってるみたいじゃない。元気になって良かったねっ!じゃね〜。』といわれ、

なんだかぽかーん。

そしてその
ぽかーんとしているわたしを
どうにも見かねたのだろう。

文系クラスでの同級生で、わたしとおなじく『集団でキャピキャピするのは、興味対象が違いすぎるから、苦手なの、遠慮しとくわ』派であった
K沢マリコさんがため息まじりで解説をしてくれる。

『あのね〜かつこさん。私たち高々生の頭の中にはね。いつだって高校3年間の後にくる『受験』ってもののプレッシャーがあるわけ。ストレスでしょ?発散したいでしょ?』

『う、うん…』

『だから、ああやって彼女たちは集団でキャーって言ってみんなで楽しめる対象を見つけてくるのよ。あの中に本気で想って彼を見つめてるひとなんて、もしかしたらひとりもいないんじゃないかなぁ。つまりは観賞用なの。『みんなで楽しむ、みんなの恋人』なのよね〜。どう?すこしはわかった?
じゃあね、わたしお先に失礼するわ。』

お調子者のわたしと違って
頭脳も気持ちもどこかクールな
彼女が革の鞄を抱えて静かに立ち去り。

『か、か、観賞用〜?!』

おんなのこって
おんなのこって、なんだか、さっぱりわからない〜、ついてゆけ〜ん!

…そうつぶやくわたしが
ひとり教室にぽつんと残された、あの日。

窓のそとには、夏の名残りの百日紅の花と、やわらかな薄いピンクの芙蓉の花が並んで風に揺れていたっけ…。


…なあんてね。
この描写、季節からし
うそですよ。

そんなわけはない。

たしかに
M下先輩の入れ食い状態のようなファンクラブもどきは、
夏の終わりにどころか、秋が来ても健在でした。

文化祭と修学旅行をピークにして、少しずつ静かにはなっていったけれど、

それでも、集団が各自解散し、下校したあとに。
あらためてわたしのもとに
引き返してきた女子の数人。

彼女たちはたぶん
本気だったんです。
マリコさん。

わたしの日記には、もっと
すごいこと、メモされてました。

『%月$日

わたしは、今日ついに見てしまった!

例のM下先輩のなんていうか魅力 にまだ気付いてなくて、ついさっきまで、ほんとになんの意識もしてなかった女子が、

生徒会室でまわりでみんながワイワイガヤガヤやっているなか、先輩と二言三言交わしたあと、先輩の肩をどつくようなしぐさをして……そして、彼女の瞳に、ハートマークが広がってゆくのを…。
そんな瞬間を見てしまったあ。

見てはいけないものを
見ちゃったきがする。

〇〇さんごめん〜!ほんと
ごめんね。ごめんなさい!

とんちゃーん、
なんだか、わたし、先輩がこわぁなった(=怖くなったの讃岐弁)よ〜ぅ!』

(=゜-゜)(=。_。)

M下先輩、おそるべし〜!