Iくんはね、ヤッパリなんだか、寅さんみたいな男の子だった…

えっへん!

先輩の写真見せられても
動じなかったのはね。

わたしのマー君こと、Iくんだけだったさ〜。

あの時、KEIさんと一緒にテープを聞いて
『わかりました。あなたと結婚します。』ってお返事した

あの一の宮の家の応接間で。

いつも通りにアルバム広げて先輩の写真見せたわたしに

Iくんは言ったの。

『そいつが、W大出て、新聞記者してる…なんてことが、

いまボクがこうしてキミと話してることに、

ボクがずっとキミを忘れられなくて。

キミに会いたいなぁって…思ってきたことに

何の関係があるのさ…?

いま関係ないだろ?
怒るぜ?

そうして
愛媛で中学校の先生になってたIくんはね

『どうしても
ボクじゃ、だめなんだね?』

って
わたしの目をのぞきこんでね

それから
わたしの肩抱いて、なんだか深いため息ついて
それからこう言ったの。

『かっちゃん…キミはね。

キミは、あまりに…かしこすぎたんだよ。

まわりがそうとは…シラナいで。気づいてくれなかっただけなんだ。

キミはね、あまりに、かしこ過ぎちゃったんだよ…。』


…え?
なんのこと?

わからない。

でもいいの。
Iくんの背があんなに大きくなって、笑ってるのを、わたし、この目で見れたのだもの。

中学校の先生になったんだね。
あなたに出会える子どもたちはきっと

きっと きっときっとしあわせ。

今日の昔のあなたの顔を思い出すたび

あなたのしあわせを心から祈れるわたしは

わたしは
わたしは

わたしは、これでもう充分なの
心配しないで
わたしは、しあわせ…。

たとえ、少しずつ少しずつ

こうして狂っていっていたとしても…。