わたしには、しなかったふりは…できない約束だったから。
『社会もオトコのひとの意識もいつまでたっても変わりはしないわ。
結婚なんて…、どんなに時代が変わっても。オンナにとってはね、結局は体裁の良い合法的な『身売り』なのよ。
どんなに気取って格好つけて体裁つけてみたってね、
ひと皮むけば
どこかの家のどこかのオトコのベッドサービスも付きでのベンリな『家政婦』になるんだって要素は消えやしないと思う。
だから。
わたしはね、自分で自分の選ばれ先を選べるくらいの人間になってやろうと思うのよ。
あのムスメはどうにも手強い。知能もあるしプライドも高い。経済力も持っている。
うかうか
勝手に私達風情が結婚相手を決めて進めなぞしたら、うるさい。
あのムスメに
私達のいままでのやり方なんかもう通用しないゎ。かなわない。
面倒だからほっときましょうね?。
ど〜うせどこかの馬の骨とくっついて
尾羽根うち枯らして、不様をさらすが関のやまでしょうからねぇ。楽しみだわね?。
もう…ホントにそこまであのひとたちに思わせなくては…ダメなのよ。
結婚の自由なんて…勝ち取れないわ、うちの家では。』
と姉は言い。
仕事をこなしながらお茶を習いお花を活け、仕事帰りのお料理学校を楽しみながら…いくつかの恋を経験していったようだった…。
そして
かつて自分が勉強したかった…医学と薬学の道を歩こうとしているそのひとを、大好きになって。
ある日『お嫁さん』になった。
…あのお姉ちゃんが。
いつも眉をくちびるをキュッとひそめてた お姉ちゃんが、
あんな…なんだかもう、う〜ん困っちゃったわね、どうしよう?
とでもいうような、柔らかな照れた笑い方をして、そのひとの隣りに座っているのを見れたとき。
父母には
姉の結婚が本決まりになるまで
過食に吐食の摂食障害をもち、『耶蘇教』なんぞ歌をうたい、異国の宣教師なんぞにハグされて笑っていたりする『はしたない恥さらしな』ヘンな妹のワタシが、
この優秀な姉ムスメのそばにじつは存在することを……もう必死でひた隠しにしようとしていたらしい。
しかし蓋をあけてみれば
姉の選んだひとは医学畑のひとだったし。選んだ家のご親戚の方々も、それぞれ薬剤師に、レントゲン技師、病院経営。
もうとっくに姉から説明されて、わたしの存在を知っていて…
『ああ、それはたぶん思春期症候群だね。
うまく対応してもらえず、こじらせちゃったんだね、きっと。
繊細な知能的な能力のある子がなりやすいんだよ。…つらいだろうが、時間がね、かなり解決してくれるものだから…。
私達は、騒がずにそっとゆっくり見守ってあげようね。』
そんな話にもうなっていたのだった。
しかも姉のこのお嫁入り先のお姑さんは、
あろうことか、わたしたちの卒業した高校の前身の女学校のご卒業…。
終戦の際には、あの木造校舎がGHQに渡され土足で荒らされるのを、木陰から見つめて悔し涙にくれ。
『…あのときは、学校の復活の費用にと、お友達の皆で相談しましてね。手作りのお汁粉やら甘酒をつくっては、高松の町にでて売り歩いたりまで、したものなんですよ?
まあ、なんだかホントに懐かしいですわぁ…。』
という大先輩〜!
恐縮しわたしを家の奥へ奥へと、人目から隠したがる母にかまわず、わたしに話しかけ…。
ご一家で本当に目をかけ、事あるごとにわたしを可愛がってくださったのだった…。