父は何かに…負けてしまったのだ。

cat-work2302016-08-24

まだひとりの所属先も選択科目もはっきりしない、ひとりのしかし実家が病院を持っている医学生の身分だった義兄と姉との結婚…。

ふたりが住み、父母にとって初めての孫の…父の待望の男の子のタ〜君が生まれてた…『京都』は。

遥か昔、わたしの先祖だと言い伝えられてきたひと達が、ただの一時期の赴任先だったその土地で。

その美しい風景と出会った人々に惚れ込んで…離れがたくなってしまった、とかで

そのあげくにその土地の名を自らの姓名として名乗るようになった所…。

もとは『久我』という姓の家名の一員であったことを捨て去って、

一切の援助を受けず新しく生きると…決めたといわれる町がある場所だ。

姉の結婚
父母にとっても親族たちにとっても センセーショナルで。

まるで室町幕府時代か、戦国時代のままのようだった家の中の数々のしきたりやら、生活意識に
風穴をあけ、
一気に昭和の…バブルの現代の空気を吹き込んだ。

じつは、もう新しい機械を買うことにしたの。でも、まだ使えるのよ、この機械。よかったら便利だからためしに使ってみて頂戴ね…。

そういわれながら電子オーブンレンジ…。 大きなテレビに。すっごくいい音の出るステレオセット…。そして電気乾燥機。
高級で科学的で最先端なものが、我が家につぎつぎと送られて。
初めは、いろんなものに、こわごわ触っていた母も

なんとか使い勝手がわかり、御近所のひとと、テレビで見た新しい料理を試してみて、楽しそうに笑いあったりしはじめていた。

わたしもステラ先生たちと教会で会った女の子たちに、教えてもらった何種類かのケーキを見よう見まねで焼き…、本を見てクッキーを焼いた。

生活は楽になっていたはずだ。
…けれど。
父は狂っていってしまった。

浴びるように
お酒を飲んではわたしに叫ぶ。
『あいつはなぁ〜、ゆ〜みこはなぁ〜。お〜まえとちごぅて、
おんなにしとくが惜しいくらい賢い賢いやつじゃったから、

家からは出さんつもりでおったんじゃぁ〜!

あ〜んな家が 医者がなんぼのもんなんじゃ〜。金持ちにだまされおって、あの、くそが〜ぁ。
居らんようになるんなら、くその役にもたたん、お前(←わたしのことです。)のほうがどっかに行けばよかったんじゃぁ〜
お前が行け〜、どこへでも!

お前の顔なんぞ見とうもないわ!

ゆ〜みこ〜ぉ
ゆ〜みこはぁ〜
どこへ行ったんじゃぁ〜。』

…でもって
お酒が冷めたときには、そんな狂いようをしたことは、覚えておらず。

『アホ抜かせ。オレがそんなことを言うわけがない。うそもたいがいに、せい!』と言う。

もう支離滅裂
メチャクチャであった。

しかし、どちらかといえば、今までだって常日頃から

父は、ワガママ放題に家の中では言いたい放題に言い放つひとであったから。
それが病的な症状であることを…

残念なほどに無知で
また、うかつであった、

私達、家族は気付かなかったのだ。


義兄が無事に医師となって
二人目の
男の子ヒデちゃんが産まれ。

その介添えに母が高松の家には、居なかった時のことだった。
夜中にふと目がさめて起きると
父の部屋から
話し声がする。
のぞいてみると
父が部屋の壁を指差して
夜中にひとりヘラヘラ笑い続けていた。

『壁にな、
壁に虫がな、
這い寄るんじや。ほら見てみ。
何匹も何匹も何百とおるぞ〜。
お〜い、ほら見てみい、そこに居るだろう〜?』

うん。
そうだね、たくさんだね。

ね、あのね。
おとうさん、気持ち悪くない?
『なぁんも、気持ち悪いことやないがぁ〜!

おもっしょいでないかぁ。
おもっしょいのぅ〜。

おもっしょいのぅ〜

どこからきたんじゃ、こいつらは?』

うん 。
そう、おもっしょいの。それは、良かったね、
ちょっと横になれるかい?
わたし、ここで虫みててあげるからさ、

おとうさん、ちょ〜っとだけ、眠ろう?

『いやじゃ。
眠らん。

わしゃ、この虫を数えてやるんじゃ。

こいつら、どこから来たかのぅ〜?。そいで、どこへ行くんかのぅ〜?』

朝を待って
姉夫婦の赴任先だった奈良にいる母に。

連絡を入れた、わたしのはずなのだけれど。

その件のその後のことを

母がいつ奈良から帰り、父をどうしたのだったのか…。

また母が帰ってくるまでわたしと父がどうしていたのか。

一切の記録もメモの欠片もなく。

わたしは一切…覚えてはいない。